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スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8 ― 中身総入れ替え

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SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm F1.8(スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8)は、1959年5月末に発売されたキヤノン(当時の社名は“キヤノンカメラ株式会社”)最初の一眼レフ、キヤノンフレックスの標準レンズとして同時に発売されました。この正しいカナ表記は「スーパーキヤノマチック」で、「スーパーキャノマチック」や「スーパーキャノマティック」は誤り(Googleでさえ「もしかして: スーパーキャノマチック」とやらかす有様)ですが、ウェブのみならず出版物にも誤ったカナ表記が行われている例は古くから少なくありません。

レンズ名の「スーパーキヤノマチック」とは、キヤノンフレックスに開発採用されたRマウントの自動絞り機構“スーパーキヤノマチックシステム”に対応していることを示す名称です。スーパーキヤノマチックシステムはクイックリターンミラーの運動が自動絞りとシャッターの動作を司るよう設計された自動絞り機構ですが、このネーミングをアサヒカメラ1959年8月号のニューフェース診断室は、仰々しい名前と冷笑的に評しています。

Rマウントは、仕組みとしては締め付けリングを回して固定する、スピゴットマウントあるいはブリーチロックと呼ばれる方式ですが、当時の製品カタログには「独特のバヨネット式」とあり、スピゴットともブリーチロックとも記されてはいません。

この翌月の1959年6月に発売された日本光学のNikon FのFマウントには、それまでの国内外のカメラには前例がないステンレスが用いられ、小倉磐夫・東京大学名誉教授(1999年当時)は、当時ニコンFを分解・検討した同業他社の技術者が「設計技術はともかくとして、あの材料の使い方はクレイジーともいえるほどで、とてもまねができない」とあきれていたのが昨日のように思い出される。と述懐しています(『アサヒカメラ ニューフェース診断室 ニコンの黄金時代② F4~F100「診断室」再録』の巻末記事「ニコンFマウント物語」よりp.187最下段)。当時はキヤノンにも、硬く粘りのある摩耗に強い金属材料を高精度に加工してバヨネットマウントに仕上げて量産できるような生産技術がなかったようです。

キヤノンの50mm F1.8レンズというと、伊藤宏設計による距離計連動機用ライカスクリューマウント(Sレンズ)のSERENAR 50mm F1.8(後にセレナー銘を廃してCANON 50mm F1.8 Ⅰ)が、コマ収差の補正がズミクロン50mm(6群7枚)より優秀な高性能レンズとして知られ、世界のガウスタイプレンズ開発史にその名を刻みますが、スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8は、より長いバックフォーカスが要求される一眼レフでも焦点距離・開放絞り値の両方とも距離計連動機用レンズと同じスペックを実現しようとしたレンズです。

キヤノンフレックスと同時に発売されたスーパーキヤノマチックR 50mm F1.8の初期型(Ⅰ型)も、SERENAR 50mm F1.8(CANON 50mm F1.8 Ⅰ~Ⅲ)も、数字の上ではどちらも「4群6枚」ですが、レンズ構成図は全く違います。SERENARが第2群と第3群がそれぞれ接合されたオーソドックスなガウスタイプなのに対し、スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8(Ⅰ)は第1群と第3群が接合で、第2群を凹メニスカスの単エレメントとした、かなり珍しい構成の変形ガウスタイプです。前掲のニューフェース診断室(小穴純・木村伊兵衛・浮田祐吉・貫井提吉の四氏が担当)は、両者を根本的に違ったものと断じています。スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8(Ⅰ)は、距離計連動機用のSERENAR 50mm F1.8からCANON 50mm F1.8 Ⅲまでの光学設計を引き継がない新設計のレンズです。おそらく、向井二郎設計の米国特許No.3023671(日本国特許出願1956年10月9日)の実施例1(EXAMPLE 1 / FIG.1)が、このⅠ型に当たるのではないでしょうか。

アサヒカメラ1959年8月号初出のⅠ型(シリアルナンバー10736)の測定結果と講評を見てみます。

51.6mm・F1.84
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.0mm
歪曲収差 -2.7%・タル型
開口効率 41%(画面対角線90%の位置)
解像力
絞りF1.8
中心部 200本/mm 平均 111本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 140本/mm 平均 118本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.03mmレンズに近い位置にある。
絞りF5.6
中心部 250本/mm 平均 114本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 125本/mm 平均 155本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.08mmレンズに近い位置にある。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.07mmレンズから遠い位置にある。
 標準レンズであるスーパー・キヤノマチック50㍉F1.8は4群6枚の変形ガウス型(第1図)で、これまでの距離計連動式のキヤノンの標準レンズ、キヤノン50㍉F1.8(第3図)とは根本的に違ったものである。明るさの実測値はF1.84で良好。焦点距離は51.6㍉で、距離計連動機の標準値と合わせたものと思われる。焦点移動量はF5.6に絞ったとき0.0㍉で非常に小さく、この点は一眼レフ用レンズとして最適である。解像力は別表のようで、画面中心では良いのだが、中心から対角線上で7割くらいの点から先は同心円方向の解像力が相当ひどく落ちている。その結果解像力の平均値も、距離計連動機用のF1.8レンズにくらべるとかなり低く出ている。
 歪曲はタル型でF5.6に絞ったとき画面周辺でマイナス2.7%。これは写した写真の上で容易に判別できるほどの大きさで、複写などにもよく使われる一眼レフ用レンズとしては、大へん好ましくない。画面周辺で明るさの減少する割合を示す開口効率は、画面対角線90%の位置で41%、これは割に大きくて良い。
 いったい、一眼レフ用のレンズはバック・フォーカスの長いことが要求されるため、F1.8の明るさを保つならば焦点距離をいくらか長くし、もし焦点距離を50㍉に保つならば明るさをF2ぐらいにとどめておくのが無難なところなのだが、スーパー・キヤノマチックが二兎を追った結果、常にキヤノン・レンズをマークしているライツ(西独)をほくそ笑ませるような結果になったのは遺憾である。
 レンズ交換はズノーと同じく、着脱用バヨネット・リングを回して行う。この方法はしっかりしまってよいのだが、はめるのがかなりやりにくい。それより重大なことは、このリングに止め金がついていないことで、夢中で写しているうちヘリコイドの繰り出しリングと間違えてこのリングを回し、危うくレンズを取り落としそうになった場合があった。またどこまで回せば固定されるか、そのマークもないので不安である。止め金具とマークは必ず付けてほしい。ヘリコイドの運動は近距離になるにつれて渋くなる。ボデーからはずすと円滑に回るのだから、これはバヨネット・リングを締めつけることによって鏡胴の一部がヒズむためだろう。一流会社の製品だけに一層の研究を望みたい。
 自動絞りは常に開放状態になっているわけだが、場合によっては絞った状態を見たいことがある。そんなときのためにプリセット・リングの直後に手動絞りリングが用意してあり、これを回すと絞りが随時、随意に絞られる。これは便利でよいのだが、手動絞りを元へ戻すのを忘れると失敗することがある。自動復元装置を考えてもらいたい。また手動絞りリングと焦点調節用のリングとが、ひどく接近した位置にあるため、一方を回すと他方までつられて動いてしまうことが多い。自動絞りが任意の中間位置で作動するのは大へんよいが、絞り穴の形が小絞りのときイビツになるのは、どうかと思われる。
 鏡胴の距離目盛りはメートルとフィートの二本立てで、色分けになっているため見やすい。60㌢の近距離まで接写ができるのはよいとして、無限遠から60㌢まで動かすのにカメラを構えた状態では、だれがやっても指を7回持ちかえねばならぬというのは面倒である。鏡胴の重さは305㌘で、ボデーの700㌘にくらべるとひどく重すぎる。
『カメラドクター・シリーズ〔第2集〕 話題のカメラ診断室』よりp.89~90

質量についてキヤノンカメラミュージアムでは、Ⅰ型は295gで、後期型のⅡ型以降に305gになったとしていますが、当初のⅠ型から305gだったことが、このニューフェース診断室の記述で判明しました。

また「距離計連動機用のF1.8レンズにくらべるとかなり低い」と評された解像力ですが、参考までに、アサヒカメラ1958年2月号初出の、距離計連動機用ライカスクリューマウント、CANON 50mm F1.8 Ⅱ(シリアルナンバー224040)の測定データを出しておきます。CANON 50mm F1.8 Ⅱは、SERENAR 50mm F1.8(CANON 50mm F1.8 Ⅰ)の5番目のレンズを新種ガラスに設計変更したものです。この号での解像力の測定限界は187本ですので、実際の全画面平均値はここに記された値よりかなり高いと思われます。

51.5mm・F1.84
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.1mm
歪曲収差 -0.05%・タル型(F5.6時)
開口効率 43%(画面対角線90%の位置)
解像力
絞りF1.8
中心部 187本/mm以上 平均 141本/mm
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”と“画面中心が最良となるようなピント面”は一致している。
絞りF5.6
中心部 187本/mm以上 平均 128本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 187本/mm以上 平均 146本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.08mmレンズに近い位置にある。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.08mmレンズから遠い位置にある。
『カメラドクター・シリーズ〔第3集〕 カメラ診断室 '76』p.196~197の記述に基づく


ここで、解像力について少し述べておきます。

レンズの解像力=レンズが持っている空間周波数のカットオフ周波数が、そのままフィルムやイメージセンサーで撮影された画像にダイレクトに反映するわけではありません。それは撮像側(フィルムやイメージセンサー)にも解像限界があるからです。

レンズの解像力と、フィルムやイメージセンサーの解像力との関係については、古くから「カッツ(Katz)の式」が実験的に実情によく合うとされ、解像力に関する基礎知識として知られています。

カッツの式とは、
「“レンズとフィルムあるいはイメージセンサーを含む撮影装置の系全体の解像力(撮影された画像の解像力)の逆数”は、“レンズの解像力の逆数”と“フィルムあるいはイメージセンサーの解像力の逆数”の和に等しい」
というものです。

ウェブ上では最近のデジタルカメラのイメージセンサー高画素化の傾向を捉えて「レンズも高解像力化する必要がある」などと言われますが、しかしこの式により光学系の解像力が変わらなくとも撮像センサの画素数アップによりデジタルカメラの総合解像力は向上することが示される.(青野康廣、日本写真学会誌 第73巻 3号 p.175~179よりp.177)というわけです。同様に、フィルムやイメージセンサーの解像力が変わらなくとも、解像力の高いレンズを用いれば、撮影される画像の解像力もそれなりに上がることになります。

カッツの式はウェブ上ではあまり知られていないようなので、念のため記します。


ところで、スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8(Ⅰ)を標準レンズとして発売された「キヤノンフレックス」ですが、1959年8月号のニューフェース診断室はこう評しています。
 一流メーカーの力作だけあって、器具、骨柄非凡の感じのするカメラではあるが、細かい神経が行き渡っていない点は、何かの理由で発売を急いだためと見たのはヒガ目だろうか。
また同じ記事で、キヤノンカメラ会社が、このカメラを発表して以来、いまにいたるまで、広角レンズを用意する意志を示していないのは、どういうわけだろう。と訝しんでもいます。

キヤノンが「何かの理由で急いだ」のには前例がありました。その前例は、荒川龍彦『明るい暗箱』の復刻版p.134~136に見られます。
 S2型の発表は(中略)、昭和29年12月10日に開催されることになっていた。ところが、その2日前の12月8日に、にわかにキヤノンが新製品の発表会をやるというのである。まことに符節を合わせたようで、偶然にしてはできすぎていた。(中略)
 ニコンS2型が完成し、立派な会場を使って華々しく新製品発表会を開催することが決定すると(中略)、その動機は定かではないが、某重役がこのことをわざわざキヤノンに知らせにいったというのである。(中略)
 ところで、キヤノンの新製品発表会というのには、少々問題があったようである。なにせ12月8日に盛大に発表した新製品というのが、前年の7月に発表したばかりのキヤノンⅣSb型をほんの少々改良しただけとしか思われない「ⅣSb改良型」であり、どうひいき目に見たところで準新製品とでもいうほかはない試作品だったからである。しかも、発表と同時に市販を開始したニコンS2型とちがって、この型のキヤノンが実際に発売されたのは翌年の4月になってからなのだから、わざわざS2型発表会といういわばお祝いの直前に、麗々しく盛大なご披露をやらなければならないというような必然的な理由があったとは考えられない。
 キヤノンでは、かねてからの計画通りであると語っていたが、世間では、なんとかニコンの新型発表に水をさそうとした苦肉の策であるとうけとめた人も少なくなかった。(中略)ある業界人は、「いたずらにニコン新型発表会の前座をつとめたに過ぎなかった」と評した。
キヤノンフレックスもNikon Fの露払いとして前座を務めた後、市場の不評に送られつつ短い生涯を閉じました。


スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8はその後もう一度、アサヒカメラ1962年8月号で、62年5月発売(4月ではありません)の「一階建の一眼レフ」、キヤノンフレックスRMを取り上げたニューフェース診断室で、後期型・Ⅱ型の個体(シリアルナンバー76941)が測定されています。この号に掲載されたレンズ構成図は1959年8月号掲載の初期型(Ⅰ型)から激変して、第2群と第3群がそれぞれ接合されたオーソドックスな4群6枚のガウスタイプに変わっています。初期型とレンズ名は全く同じ、外見も寸法も質量もそっくりですが、下に示す測定データがことごとく異なることからも分かるとおり、中身は完全に別物です。

以下はアサヒカメラ1962年8月号初出の測定結果と講評です。

51.4mm(設計値は51.6mm)・F1.82
F5.6に絞ったときの焦点移動量 0.04mm
歪曲収差 -1.4%・タル型
開口効率 34%(画面対角線90%の位置)
解像力
絞りF1.8
中心部 140本/mm 平均 88本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 112本/mm 平均 94本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.03mmレンズに近い位置にある。
絞りF5.6
中心部 224本/mm 平均 102本/mm (画面中心が最良となるようなピント面)
中心部 90本/mm 平均 125本/mm (画面全体が平均的に最良となるようなピント面)
“画面全体が平均的に最良となるようなピント面”は“画面中心が最良となるようなピント面”より0.08mmレンズに近い位置にある。
F5.6の“画面中心が最良となるようなピント面”は開放の場合より0.02mmレンズから遠い位置にある。
 標準レンズはスーパー・キヤノマチック50㍉F1.8(4群6枚変形ガウス型第1図参照)で、前回診断したものと同じだが、3年間にどのように進化したかが興味の中心だった。実測値は明るさがF1.82、焦点距離が51.4㍉(設計値は51.6㍉)で問題なく、焦点移動量もF5.6に絞ったとき0.04㍉のびるだけでこのクラスのレンズとしてはよい方だ。球面収差、非点収差はよく補正されていてたいへん小さいが、像面はいくらか内向きに湾曲している。歪曲は周辺部でマイナス1.4%のタル型だが、実際にはほとんど目立たない。前回のレンズがマイナス2.7%という写真の上で容易に判別できるほどの大きい歪曲を持っていたことに比べると、このへんに改良のあとが見られる。画面周辺で明るさの減少する割合を示す開口効率は、画面対角線90%の位置で34%、前回のレンズにくらべると少し悪くなった。
 解像力は第2表のとおりで、よい値である。実際の撮影でも、シャープなよい写真が得られた。前回のものは対角線上で7割くらいの点から先は同心円方向の解像力が相当ひどく落ちて、その結果、解像力の平均値も低く出たが、こんどのレンズではこの点もかなり改良されている。
 レンズの着脱は従来どおりのキヤノンフレックス式バヨネット、水道管などの接続に使われるユニオンの方式で、止め金がついていないこと、どこまで回せば固定されるかを示すマークがついていない点など前のままである。鏡胴の焦点調節用ヘリコイドリングは幅がせまいので回しにくいし、位置を探しにくい。もっと高さを高くし、リングのデコボコを大きくするとよい。ヘリコイドの動きは、あいかわらず無限遠に近づくと堅くなる。また鏡胴と第1レンズとが接触する内面に、光軸に平行な円柱面があり、これが絞り開放の場合、ボデーの内面反射を助長しているのはまずい。
『カメラドクター・シリーズ〔第4集〕 カメラ診断室 '77』よりp.223~228

このⅡ型は、レンズ構成図も収差図も解像力も、後のFL50mm F1.8 Ⅰにとてもよく似ています。おそらく、このⅡ型の同心像面の倒れ方を改善したものがⅢ型で、そのⅢ型をFLマウント化したのがFL50mm F1.8 Ⅰだろうと推測します。そしてこのキヤノンカメラミュージアムのFL50mm F1.8 Ⅰの項にある、Sマウント用50mm F1.8で取り入れた理論展開を、一眼レフカメラ用レンズにも応用して設計された、ガウス型の標準レンズ。という記述は、正しくはここではなく、スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8 (Ⅱ)の項に記載されなければならない内容だろうと考えます。

1962年8月号でのテスト時に計測作図されたⅡ型の収差図が、それからおよそ四半世紀後のアサヒカメラ1987年4月号(1987年3月18日発売)で公開されました。この号は1987年3月1日に発売になったキヤノンEOS 650と初代のキヤノンEF50mm F1.8をテストしているのですが、その記事中にある、スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8(Ⅱ)から初代EF50mm F1.8までのキヤノン歴代一眼レフ用50mm F1.8レンズの収差図の図12(図13はFL50mm F1.8 Ⅰ、図12に似ていることがお判り頂けると思います)を見ると、このレンズの像面湾曲は後のキヤノン製品より大きく、同心像面が半画角18度から四隅に向かってレンズ側に大きく傾いていくため非点収差も四隅に向かって増大していくことが分かります。そして注目すべきは球面収差で、最大入射高(レンズ最周縁部)での補正過剰分は僅かに+0.03mm程度と非常に少なく、完全補正型(フルコレクション)の設計であることが分かります。中間帯での補正不足側へのふくらみもF2.8付近で最大-0.08mm程度と、こちらも非常に小さくなっています。

この時代の国産の一眼レフ用レンズがこれほど小さな球面収差を実現しているのは、もしかすると…と思ってCamerapedia WikiRadioactive lensesを見ると掲載がありました。確認のため、入手したシリアルナンバー8万9千台の個体の放射線量を測定したところ、前玉側で 0.15 µSv/h、後玉側で 1.41 µSv/hの数値が得られました。スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8の、少なくとも後期型はトリウムガラスを使用した放射能レンズ(アトムレンズ)です。

Ⅰ型で、無限遠から60cmまでだれがやっても指を7回持ちかえねばならぬというのは面倒と評されたピントリングの回転角ですが、入手したこの後期型でも改善されておらず、僕の場合は無限遠から60cmまで動かすのに8回持ち替える必要がありました。とてもまだるっこしいです(笑)


スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8の初期型(Ⅰ型)と後期型(Ⅱ型・Ⅲ型)の外見上の見分け方ですが、このレンズは絞りリングが2つあって、マウント面側から見て手前の、距離リングに隣接する方は手動絞り(本来はプレビュー確認用)で、レンズ先端側が自動絞り設定用ですが、このレンズ先端側の自動絞り設定リングが、初期型は手動絞りリングより幅が広くなっています。後期型は2つの絞りリングがどちらも同じ細さ・同じ形状になっています。


キヤノンは1964年発売のCanon FXで自動絞り機構を一新、フィルムを巻き上げてからレンズを交換すると自動絞りが動作しないスーパーキヤノマチックシステムを捨てて、FLマウントに移行しました。FLマウントの寸法や形状はRマウントと同じにもかかわらず、自動絞り機構とその連動ピンが全く異なるため、自動絞りの互換性は全くありません。キヤノンの一眼レフはその後、1971年3月1日発売のCanon F-1とCanon FTbから、東京光学のライセンス実施許諾を得てTTL開放測光に対応したFDマウントに移行しました。

このマウント互換性の中途半端な放棄が障害となって、スーパーキヤノマチックR 50mm F1.8はFDマウントレンズ用のマウントアダプターには装着できません。検索すると、マウントアダプター側のピンを除去する改造をされている方もいらっしゃいますが、スーパーキヤノマチックRレンズ用アクセサリーのひとつとして当時用意されていたキヤノン純正のマウントアダプター“キヤノン レンズマウントコンバーターB”の中古を入手してライカスクリューマウントに変換、それを、ライカスクリューマウントのレンズをミラーレス機のマウントに変換するアダプターを経由して使用する方法もあります。



AQUAMARINE 1/8scale "ONE -ARIA ON THE PLANETES-"
SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm F1.8(Late version), F1.8
OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ (ISO 200, A mode)



SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm F1.8(Late version), F2.8


SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm F1.8(Late version), F4


SUPER-CANOMATIC LENS R 50mm F1.8(Late version), F5.6



参考資料(順不同):

カメラドクター・シリーズ〔第2集〕 話題のカメラ診断室(朝日ソノラマ・0072-003022-0049・1974年8月24日発行)

カメラドクター・シリーズ〔第3集〕 カメラ診断室 '76(朝日ソノラマ・0072-003047-0049・1975年11月30日発行)

カメラドクター・シリーズ〔第4集〕 カメラ診断室 '77(朝日ソノラマ・0072-003055-0049・1976年11月30日発行)

アサヒカメラ ニューフェース診断室 キヤノンの軌跡(朝日新聞社・ISBN4-02-272139-1 C9472 ¥1800E・2000年10月1日発行)

アサヒカメラ ニューフェース診断室 ニコンの黄金時代② F4~F100「診断室」再録(朝日新聞社・ISBN4-02-272129-4 C9472 ¥1800E・2000年1月1日発行)

アサヒカメラ 1979年4月増刊号 35㍉一眼レフのすべて(朝日新聞社・雑誌01404-4・1979年4月5日発行)

クラシックカメラ選書-17 [復刻]明るい暗箱(荒川龍彦・朝日ソノラマ・ISBN4-257-12027-4 C0072 ¥1700E・2000年6月15日 第1刷)

クラシックカメラ選書-22 レンズテスト[第1集](中川治平,深堀和良・朝日ソノラマ・ISBN4-257-12032-0 C0072 ¥1800E・2001年11月30日 第1刷)

科学写真便覧 上 新版(菊池真一,西村龍介,福島信之助,藤澤信 共編・丸善株式会社・1960年6月15日発行)

新装版 現代のカメラとレンズ技術(小倉磐夫・写真工業出版社・ISBN4-87956-043-X C3072 P3000E・1995年10月17日 新装版第1刷)

デジタル写真の基礎(5)4.デジタルカメラの光学系(I)(青野康廣・日本写真学会誌 第73巻 3号・2010年)

Pacific Rim Camera Reference Library - Canon Canonflex

Camerapedia - Radioactive lenses

レンズマウント物語(第2話):キヤノンの苦悩 - デジカメ Watcharchive.is

Canon Super Canomatic LENS 50mm f1.8 - YouTube

アサヒカメラ ニューフェース診断室 -朝日新聞出版|dot.(ドット)

キヤノンカメラミュージアム






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